カンボジア国産非食用バイオ燃料で電力供給:ナンヨウアブラギリ粗精製油の発電用代替
案件名:カンボジア・ナンヨウアブラギリ粗精製油の発電用代替燃料利用CDM事業調査
対象地:カンボジア王国
期間 :2008年7月~2009年2月
業務委託者:財団法人地球環境センター
プロジェクト概要
本提案事業のバイオ燃料サプライチェーン構築事業は、世界に先駆けて経済性のある再生可能エネルギーの地産地消モデルを実証し、カンボジアの低炭素型産業開発へ道を開くものです。また、一般的な大型の温室効果ガス(GHG)削減CDM事業とは異なり、提案事業の関連産業に留まらず、事業活動を支える農産業の育成、雇用創出、従事者の所得向上をもたらすものでもあります。
具体的には、油糧種子(ナンヨウアブラギリ)の生産技術をカンボジアの低所得農民や大型の土地利用権を持つ事業者に移転し、カンボジアの広大な未利用地を活用したバイオ燃料資源の生産(本提案の事業外)により、継続的な雇用創出と安定的な収入機会の提供を行います。本提案事業は、生産された油糧種子を搾油・精製し、提案者が開発・運営するプノンペン経済特区(PPSEZ)の発電用燃料として使い、安価で安定的な電力をPPSEZの入植企業へ提供する事を目的としています。代替燃料の利用により、変動が激しく高額な輸入化石燃料の使用量を削減すると共に、GHGの排出削減に貢献する事業です。

ナンヨウアブラギリ粗精製油の発電代替用代替燃料の全容とCDM事業
想定されるプロジェクトの温室効果ガス削減量は、2011年:489tCO2e、2012年:971tCO2e、2013年:7,589tCO2e、2014年:26,791tCO2e, 2015年:52,645tCO2e, 2016年~2020年:各年68,235tCO2e/年で、10年間の合計429,657tCO2eとなる予定です。
同国では復興支援によってインフラ整備、産業開発が急速に進み、化石機燃料に依存した産業・社会構造が形成されつつありますが、純資源輸入国である同国の長期的な成長を維持する為には輸入資源に依存しない開発戦力が必要です。本提案事業は、CDMという新しい資金スキームを活用する事で、従来経済性の観点から導入が見送られていた同国国内で調達可能な再生可能エネルギーの利用を促進し、同国の低炭素型産業構築に寄与する事が期待されています。

ナンヨウアブラギリ試験農園

薪を収入源とする地方農家

薪炭販売の為荒廃した森林跡地ナンヨウアブラギリの植林予定地
1.ナンヨウナンヨウアブラギリ粗精製油の発電用燃料代替事業の内容
事業概要
JDIが現在、カンボジアで運営・開発中のPPSEZに増設予定の計13MWの重油発電機の燃料を、ナンヨウアブラギリ油脂の粗精製油(ナンヨウアブラギリ粗精製油)で代替し、温室効果ガスの削減と安価で安定した燃料供給による価格競争力のある電力供給をPPSEZへ行うことを目的としています。
本提案事業で設立するCDMの特別目的会社(グリーンエナジー社:SPC仮称)がナンヨウアブラギリ粗精製油の製造・販売を行い、またCDM事業の実施主体として排出権取得事業の実施・運営・管理を行います。まずナンヨウアブラギリ種子調達を、JBEDCがカンボジア法人として創設したCBEDC(Cambodia Bio-Energy Development Corporation)から行います。そしてナンヨウアブラギリ粗精製油は、プノンペンに隣接するカンポンスプー州でナンヨウアブラギリ種子から搾油後精製され生産されます。生産されたナンヨウアブラギリ粗精製油(生産量年間約3.4万トン)はトラック輸送でPPSEZへ運搬され、バイオ燃料対応発電機へ供給されることになります。
種子調達
プロジェクトの目的を達成するためには、年間約14万トンの種子、約5.9万haのナンヨウアブラギリ栽培が必要となります。そのため、CBEDCは比較的大規模なプランテーション栽培と農家による小規模な契約栽培を併せた種子生産を計画しています。CBEDCはこれまでナンヨウアブラギリの生産技術の確立と、農民へ生産技術を移転する指導員の育成を行ってきており、現在は20haのモデル農園において栽培技術移転能力の強化を図っています。CBEDCは計4万ヘクタールの大型農園で、10万トン程度、12,500人の小規模な垣根・間作方式で約4万トンの種子を調達する計画です。
搾油・精製・発電
通常植物油脂の燃料化には、高いコストがかかるエステル交換反応が主流ですが、本提案事業ではヨーロッパで一般化されている、簡易精製による精製植物油脂(粗精製油)を低速な発電機や農耕機で利用する技術の利用を検討しています。またPPSEZで導入している発電機のメーカー(Wartsila)は、長年粗精製油の発電機利用の研究を続けてきており、現在は粗精製油対応の発電機を販売、メーカーサポートも行っています。従って、本提案事業では搾油・簡易精製施設のみで重油相当の燃料生産が可能となり、補助金等無しでも輸入重油に対して競争力のあるバイオ燃料を供給することが可能です。
想定されるプロジェクトの稼働開始時期は2011年で、ナンヨウアブラギリ栽培面積の段階的な拡大と種子生産性の向上を見込むと、2016年には燃料の全量をナンヨウアブラギリ精製粗油によって代替することが可能となる計画です。



無電化地帯にて自家発電機農耕機エンジンを使用している様子
遠隔地の農村代表と協議を行った
ナンヨウアブラギリ種子

種子買取風景

PPSEZの重油発電機
2.カンボジアにおける本提案事業に対するニーズ
経済特区開発支援
JDIがAttwood Investment Group(現地法人)と進めているPPSEZの開発はカンボジアで初めての経済特区開発であり、その反響も大きく、既に第1フェーズの140haの内9割は売約済みで、日系企業を含む国内外の事業者が入植の予定をしています。2009年3月には、カンボジア経済に与えた功績を認められ、JDI所長である小林がフンセン首相より功労賞を授与されています。
PPSEZでは入植企業の安定的な生産活動を支援するため、15MWの重油発電機を導入し電力供給を行っていますが、今後PPSEZ内での需要増加に併せ発電機の増設を行う計画です。しかしながら、近年の燃料高騰により発電コストが非常に高くなり、電気料金へ反映せざるおえない状況で、企業誘致の観点から深刻な問題となっています。
安定的・安価な電力インフラの必要性
カンボジアは半世紀に及ぶ混乱期を乗り越え、目覚ましい復興を遂げてきましたが、インフラ整備の面では近隣諸国に比べて遅れを取っています。特に電力供給は、送電網の未整備から高コストな小・中規模のディーゼル・重油発電を利用していますが、電力需要が供給能力を超える為、停電が頻繁に起こっています。また、燃料を全て輸入に頼る同国では燃料価格の乱高下の影響を受けやすい上に、高価な燃料に頼らざる負えない状態にあります。この電力インフラの脆弱性と高額な電力料金は同国発展の阻害要因となっています。
未利用地の有効利用と農村地域の所得向上
近年の急速な経済成長の恩恵の殆どは都市部に限られ、人口の約8割が暮らす農村部では農産物からの収入を医療、食糧購入に充てる他は自給自足に近い生活を続けています。近年の原油価格の高騰を受け、燃料に加え食糧をも輸入に頼るカンボジアでは物価が高騰し、収入機会の少ない農民の生活は困窮しています。JDIは、同国の農産業開発と地方の所得機会創出の為、広大な未利用地の有効利用の検討と、一部試験的な運用を進めてきました。本提案事業のバイオ燃料サプライチェーン構築もその取り組みの一つです。
3.調査対象地域以外への波及効果
CBEDCの燃料供給能力はPPSEZの15MWを超えることが予想される為、カンボジア電力公社(EDC)等への供給も視野に入れています。また、ナンヨウアブラギリ粗油は小規模ディーゼル発電機での利用も可能なため、ナンヨウアブラギリ生産地周辺都市への代替燃料供給も併せて事業化を検討しています。
各国でナンヨウアブラギリの可能性と大型投資計画が声高に発表される中、現実に即したアプローチで真に途上国の持続可能な発展に資する開発モデルとしてアジア・アフリカ・中南米への展開をJDI/JBEDCは進めていきたいと考えています。